銀行が相続の開始を知るまでは預金が引き出される可能性があります
銀行、信用金庫等の金融機関は、相続人から相続開始の連絡を受けた段階で、預金口座を凍結(ロック)します。そのため、相続が開始したとしても、金融機関が被相続人の死去を知るまでの間は相続人による引き出しが可能ということになります。
半田知多総合法律事務所の相続相談の1/4程度が引き出し金の問題の相談です。被相続人の預貯金を特定の相続人が亡くなる前から管理していたが、「明細を教えてくれない」「取引履歴を見たところ、ATMの上限である50万円の引き出しが多数ある」「生活費では考えられない程度の引き出しがある」等のご相談が多いです。
取引履歴の取得が出発点です
相続の開始により、相続人は被相続人の預金債権を相続し、相続人間の遺産共有状態となります。
最高裁判所平成21年1月22日判決は、「預金者の共同相続人の一人は,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。」と判示しており、相続人は単独で、預金の取引履歴の取得できます。
預金の引き出しのおそれがある相続事案では、預貯金の取引履歴の取得が出発点となります。
相続開始後の無断引き出しは原則不法行為ないし不当利得です
相続の開始後の預金の引き出しは、相続人間の遺産共有状態の預金を、他の相続人が無断で引き出したことになりますので、不法行為ないし不当利得が発生します。
よって、相続人は、引き出した相続人に対して、引き出し金の請求ができます。
この場合には、民法上の救済措置もあります。
民法第906条の2により、遺産が遺産分割前に引き出された場合には、遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるとされています。よって、引き出された遺産の他に、遺産がある場合には、この条文を利用して対応することが考えられます。
民法第906条の2
1 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。